認知心理学の分野で扱われるものに「心的資源」という考え方があります。
これは言われてみれば至極当然の概念なのですが、この考えを知識として知っておくことで、スマブラDX に限らず、あらゆる対戦ゲームの上達の為に何をすればいいかが分かるようになったり、普段練習ではできるのに実戦ではできないのが何故か理解できます。
※厳密にはいくつか誤りがみられるかもしれませんが、スマブラの上達向けに噛み砕いているので大目に見ながら指摘してくだされば幸いです。
簡単に言えば
脳が同時に情報を処理できる量には限りがあります(体調などで最大量は変化しますが、ある時点での最大量は一定です)。これを心的資源と言います。
この限られた心的資源をどのように上手くやりくりするか、というのは様々な事柄の上達において非常に重要です。
心的資源には限りがあるので、複数のことに対応できるようになるためには、「その事柄に対して慣れることで、割く意識の絶対量を減らす」ことが必要になります。
人の脳が情報処理を行う際、大きく分けて2つの処理モードがあります。
意識的処理
慣れていないものや複雑なものを処理するときには、意識的にその一部一部に注意を向けながら実行する
自動化処理
何度も繰り返した熟練度の高いものは、その一部一部に注意を向けなくても、頭の中で自動的に処理されて実行されます。
自動化された処理は、その実行に必要な心的資源が減るので、余った心的資源を別の処理に用いて、複数のことが同時に行えるようになります。
具体例
心的資源の代表例として、車の運転がよく挙げられます。
初心ドライバー
最初、免許を取得したばかりで、「車の運転」に不慣れな人がいるとします。
この人は、運転しながら、難なく同乗者と会話をすることができるでしょうか? もちろんできませんね。
これは、不慣れな「車の運転」を行う際に、割かなければならない意識の量が多いからです。
例えば、その人の心的資源の最大量が10、車の運転に要する心的資源が9、会話に要する心的資源が3だとします。
「車の運転」に不慣れな人が、車の運転をしている時の心的資源の状況:
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この人に、心的資源3を必要とする会話をする余裕はないわけです。車の運転は「意識的処理」されるものだからです。
無理に会話しようとすると、運転か会話のどちらか、または両方に支障をきたすことでしょう。
運転なら信号無視や歩行者など周囲への不注意などが起こるでしょう。
会話なら相手の話に対して正確な返答ができない・生返事、といったことが起こるでしょう。
熟練ドライバー
この人は、車の運転をしながら普通に会話するということが難なくできるでしょう。
この人が車の運転に要する心的資源が5、会話に要する心的資源が3だとします。
「車の運転」に熟れている人が、車の運転をしている時の心的資源の状況:
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この人には、心的資源5が未使用であり、心的資源3を必要とする会話をする余裕があります。
しかも、運転と会話を合わせてもまだ8であり、心的資源は枯渇していません。
これは、この人にとって車の運転は「自動化処理」されたものだからです。
スマブラDXに置き換える
「心的資源」の概念を大まかにお分かりいただけたでしょうか。この心的資源の概念は、何事にも、もちろんスマブラDXにも当てはまります。
自キャラを操る各種行動・テクニックが未習得なら、やり方が分かっていてもできないのは、それを必要とする心的資源が10を超えているから、と考えてもいいでしょう。
絶空や着地キャンセルなどの基礎テクニックが、家で操作練習しているときはできても実戦ではできない、ということが起きるのはどうしてでしょうか。それは、それらの行動をしようとするときに割かれる心的資源が、未だに大きいからです。
絶空をしよう、と思ってから絶空する人にとって、絶空は「意識的処理」なので、絶空すること自体に大きな心的資源が割かれてしまっています。例えば5割かれているとしましょう。
絶空をしよう、と思って絶空する人の心的資源の状況:
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絶空するだけならできるでしょう。
しかし実戦では、心的資源を消費してしまう要素が、沢山あります。
(その時の行動の前後の操作やテクニック、間合い管理、読み合い、緊張、スマブラに関係のない事を考えてしまうなどの集中の乱れ、など)
上級者同士で対戦していると、心的資源の8~9割ぐらいはこれらの要素で必要になります。
これでは試合中に絶空しようと思うだけで心的資源のキャパシティを大きく超えてしまいます。
だから、一人で練習しているときにはできても、実戦では使えない(やろうとしても失敗する)のです。
初心者が最初にしなくてはならないこと
「使用頻度の高い基礎動作やテクニックを自動化処理にできるようにする(実行時に必要とする心的資源をゼロに近づける)こと」です。
一気に全ての基礎動作をそうすることは出来ないので、少しずつで良いし、別に失敗してもいいので、やろうとすること自体を無意識にできるようにしましょう。
その基礎動作を実行して、成功することも重要ですが、それ以上に「実行そのものを無意識に行える」ようにすることが最重要事項だと思います。
間合い管理や読み合いなどの操作に関係ないことの心的資源のウェイトは大きく、上級者はここに多くの心的資源を費やして対戦しています。
上級者は基礎動作を「しようと思ってする」訳ではなく、自然にそれをします。
心的資源を1とか0.1とかしか必要としないので、沢山の心的資源を使って高度なことをする余裕があるのです。
つまり
一人でその基礎動作やテクニックを練習をしていてできるだけでは、まだ使える段階ではありません。
その基礎動作やテクニックを対戦中に無意識にできる状態になって始めて習得していることになります。
その為には、失敗しても良いので、普段のフリー対戦に過剰気味に取り入れて、実戦形式で使おうとしてみましょう。
多くの基礎動作やテクニックを「習得」して始めて、読み合い・間合い管理などの次のステージに進むことができます。
まとめ
- 心的資源は、人が意識を割くことのできる総量のようなもの
- 心的資源の総量は増やせないが、「あることの実行」への慣れによって、それを実行するのに必要な心的資源は減っていく(自動化処理)
- 心的資源の総量以上のことを詰め込もうとすると、一部または全部が失敗してしまう
- 対戦ゲームの上達の第一歩は、使用頻度の高い基礎動作・テクニックを実行するのに必要な心的資源を減らすことである
- その為には、一人で練習していてそれができることはもちろん、フリー対戦中でも失敗を恐れずに過剰気味に取り入れて、「実行」そのものに慣れなければならない
- 自キャラを動かすのに必要な心的資源を、ゼロ(無意識で実行しようとできる)に近づけていくことで、心的資源に余裕を持たせ、より高度な試合が行えるようになっていく
書いた人: Kounotori 2015/08/23
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